やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

選挙の行方はカネとネットの話がほぼすべてという時代における公職選挙法整備のむつかしさ


 年末も大詰めになって公職選挙法と立花孝志どうすんだい問題が起きていて、私も以前立花孝志さんに名指しで黒幕呼ばわりされて何じゃそらと思いながら大爆笑していたら、最近割といい感じで黒幕みたいな扱いにされていて苦労しておるわけです。

 みんなが思うほど物事を整理してひとつの方向に向かわせるのって簡単なことじゃないし、楽しくもうれしくもなく、儲からないわけですよ。それでもやり切るのは単純に物好きだからじゃないでしょうか。知らんけど。

 で、公職選挙法については11月ぐらいまで野党の皆さんとの間でポスターどうすんの問題という、数年前の立花孝志さんがやっていたことを法的に整理して、複数のポスターを掲示できないようにしようという起案から始まり、その後、兵庫県知事選での「二馬力問題」にまで到達して、それ向けの法制どうすんのというアイデア出しが始まっているように見受けられます。政治家の皆さまがたからすれば、やはり選挙というのはご自身の立場を決める死ぬほど大事な事柄でございますので、ご意見百出なのは当然であり、それを取りまとめる方面におかれましてはご苦労があることなのではないかと慰労の言葉しか思い浮かびません。

 ただ、パソコン通信・2ちゃんねる以降長くネットと選挙を見てきた側から申しますと、有権者というのは身の回りに多く接触した意見に当面は賛同を示すものであって、これだけネットde真実が蔓延るようになりますと、それが正鵠を射た評論だろうが根拠のない駄法螺であろうが信じてしまうのが世の常なのであって、他方で、公職選挙というのは神聖なものであって、表現の自由を存分に生かした選挙戦をやることこそが民主主義の本来目指すべきところである以上、選挙期間中の選挙運動においてこれらの活動を法的に制限しどうにかしましょうというというのは暴論であるし、また、公職選挙法も「不自由の中での公平」と言いながら選挙期間以外であれば資金的にも人員的にも事前運動にかからない範囲で何をしても自由なのが現実です。

 ですから、政党が政治活動であって選挙運動ではないという名目で選挙期間中にネット広告を出すことも、本当は自分のところの支援者なのに投票を具体的に呼びかけなければ大丈夫だと特定候補の良いところを喧伝する政治動画を作り流すことも、相手陣営の中傷をネットで繰り広げることで実質的な落選運動を行うことも、目立つ人を当選させた後で議員辞職して別の人を議員にすることも、原則としてはできてしまうわけです。

 そういう公職選挙に関するあれこれについて、起きたことから泥縄的に法改正をして規制しますよといっても次々とそういう手法は編み出されてしまうのは分かっていることで、ポスターを規制したらネットで、ネットを規制したら落選運動で、資金回りも政治団体を大量に設立して資金を集めて、なんてことは当然想定されるわけですよ。

 そういう話をしていたら、なぜか産経新聞に検討している内容の割と枢要な部分が、一字一句どこぞのペーパーの中身そのままに報じられてしまうという事件がありました。どうしてこうなった… いや、まあ良かれと思って議論喚起のためになさったことだとは思いますが、これから原案も交えて野党とどういう話し合いをしようかと考えていた横から突然リアル文書ほぼ同一の記事がどーーんと出てしまうと鳥もビックリして逃げてしまうわけでして困ったなあと思うわけです。これだと調査会でのご審議に至るネタそのものを先にネットで公開したほうが議論の呼び水になっていいじゃないかという話になりかねず、調査会ご参画の先生方からしますと情報保全の観点からボッシュートされ調査会を再組成しましょうなんて話になりますのでご留意いただきたいと願う限りです。

<独自>違法選挙動画で金もうけダメ 収益支払い停止、自民がSNS対策で法改正検討

 プロ責法改め情プラ法の運用ガイドラインに公選規程を入れることで進められるものと、SNSでゴミ動画を流されてバズっても選挙関連だった場合は収益性を剥奪しろという表向きの流れはあるわけですけれども、選挙制度改革も含めてこの辺の仕上げをやるにあたっては、発信者情報開示請求が肝になります。botでガセネタを流して申し立てがあるのに消去しないSNS事業者やプラットフォーム事業者には賠償を支払わせるような形の法改正も見据える必要があるのではないかと思うんですよ。

 これはまあ、2ちゃんねるをやっていたときに、西村博之さんが「本当かどうかわからない以上、書き込みについては削除請求があっても削除しない」とやったのと似た感じの話で、その結果、書き込みが残って消さない2ちゃんねるが訴えられて西村博之さんに多額の賠償が積み上がったことはひとつの経緯としてありました。

 同じようなことがこれからのSNSや動画サイトでも展開されることになるでしょうが、しかし、ネット広告は残りますし、政治活動におけるネット利用は一層深まっていきます。既存メディアが有権者にリーチしづらくなってきた以上、費用対効果が集票面ではっきりしてくれば、国勢選挙でも地方選挙でもネット利用をしない候補者は埋没し不利になっていくことは否めません。

 このあたりも踏まえて制度設計しようぜというのは当たり前にやることであって、単に立花孝志さんやつばさの党を狙い撃ちして何かをするということではなく、民主主義における公職選挙はどうあるべきかというところから逆算して、然るべき規制をし、法律も改正して、その結果、立花孝志さんがやっぱり民意を得られるのであれば堂々と議員をやったり政党を運営してもらえばいいじゃないかという考えを私は持っています。

 類似で、石丸伸二さんを藤川晋之助さんが推して、石丸新党が都議会選挙に打って出るという話も出ていますが、やはりこれもカネとネットの話がほぼすべてなので、警戒感をもって迎える人たちはいますが選管・警察当局とも指差し確認で殴るべきものは殴る、認められるものは認めるという合意を得ながらやっていくしかないのではないかと思います。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.463 公職選挙法どうすんのとあれこれ悩みつつ、我が国のエネルギー政策における原発や2024年時点での生成AIのあり方を見つめる回
2024年12月29日発行号 目次
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【0. 序文】選挙の行方はカネとネットの話がほぼすべてという時代における公職選挙法整備のむつかしさ
【1. インシデント1】エネルギー基本計画どうすんだいという話を原発推進派の観点から述べる
【2. インシデント2】2024年末の時点で生成AIについて思うことのメモ書き
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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